AKARI HIGUCHI

始めて通った声優養成所/老舗のスパルタ教育【Story:最終話】

始めて通った声優養成所/老舗のスパルタ教育【Story:最終話】

始めて通った声優養成所/老舗のスパルタ教育【Story:最終話】

勝田声優学院では、いわゆる「アテレコ」の実習というものはほとんどない。

声優とはいっても「声の俳優」である。
だから、まずは芝居ができないことにはどうにもならない。
ということから、授業のほとんどは身体を使った舞台芝居の勉強に当てられる。

この点でも脱落者が出る。
養成所に入れば、マイク前で声優の気分が味わえると期待してやってきた生徒たちだ。

「自分は声優になりたいのであって、舞台役者になりたいわけではない」

このように言っていた生徒がいた。
これを聞いて、例の厳しい先生(その2参照)が

「 ふ  ざ  け  る  な 」

と、大激怒。

(そういえば、挨拶や返事がきちんとできない者にも喝を入れまくっていた)

まぁ生徒の言い分も分からなくはないが、しかし本気で声優になろうと思ったら、役者(演者)としての基礎勉強は避けては通れない。
残念ながらそれを理解することができず、学院を去っていった者もいた。

そして実は。
なにを隠そう。

私 も 
脱 落 者 の 
一 人 だ っ た の で あ る (ど~~~~ん)

私が学院を辞めたのは、上記のような理由ではなかった。
実は、学院長にも目をかけて頂き、↑の先生からも良い評価を頂いていた。
にも関わらず、何故辞めてしまったのか。

それは、私が「こうなりたい」という思いとは、全く逆のことを強いられたからである。
どういうことかというと。

私は当時から、強くて格好いい役者(声優)になりたいと思っていた。
が、学院長はひたすら私に(というか女子全員に)

「もっと高い声!とにかく高い声を出しなさい!そうすれば売れるんだから!もっと可愛く!」

と、指導をした。

私はこれが嫌で嫌でたまらなかった。

「なんで!?私のこの顔で、しかもこの声で萌え萌えしてたらおかしいべ!?ちゅーかぶりっ子芝居とかもうほんまに耐えられへんわ!!orz 」

毎日苦痛だった。

私はこのまま、アイドル声優を目指さなければならないのだろうか。自分がなりたいと思っている将来像には、辿り着けないのだろうか。
アイドルにならなきゃプロになれないんだったら、そんならもういっそのこと、

声 優 に な る の 、諦 め る!

. . . . と。
こういういきさつというわけ。

今考えると、なんとまぁくだらない理由だろう、(笑)

学院長は、やがて来る(というかすでに来ていた)萌え萌え全盛時代をきちんと見据え、そこで確実に売れる声優を養成しようとしていた。
これは、学院としては当たり前のことである。

それは分かってはいたものの、当時の私は、どうしてもそれに耐えることができなかった。
「なんともったいない!どうかしている」と思われるだろう。
しかし、女らしく振る舞わなければならないことがとにかく本当に嫌だったのである。

そうして学院を半ば逃げるように退学し、しかも引き止めようとしてくれた学院長のご好意を、私は無駄にした。

かくして、声優への道を断念した私は、バイト三昧の毎日を送ることとなった。
微妙にモヤモヤした気持ちを抱えながらも、晴れて自由の身になれたことに、少しだけ喜びを感じていた。

が。

ここから約5年後。

私はプロの声優として、念願の吹替え現場に立つことになるのだが….

そ  れ  は  ま  た 
別  の  お  は  な  し 。

↑ナレーション/森本レオ ww

~おわり~

この記事を書いたのは...

AKARI HIGUCHI
幼少期より吹き替え映画やアニメに慣れ親しみ、自然と声の世界を目指すようになる。2003年に俳協に正式所属。念願の吹き替え仕事を中心に、アニメ・ボイスオーバー・ナレーション等も幅広く手がけるように。
クールな役柄が多いが、持ち前の伸縮自在の声帯(秘技・声帯七変化)を使い、子供から大人まで老若男女、幅広いキャラクターを演じ分ける。また、ドキュメント系からバラエティ系まで、ナレーションも幅広くこなす。2011年3月よりフリーランスとして活動を開始。